PS5の超高速SSDに関する記事をいくつか読んで、ロードが速くなるだけじゃないんだなぁと知って驚いております。
西川善司氏や西田宗千佳氏の記事を読めばわかります。
西川善司の3DGE:Mark Cerny氏のPS5技術解説プレゼンテーションを読み解く(前編)。ここまで分かったPS5のSSDとGPUの詳細 – 4Gamer.net
【西田宗千佳のRandomTracking】PlayStation 5の技術を徹底解説! 「SSD」と「サウンド」でゲーム体験を変える – AV Watch
やはり専門家の記事は別格だと思いました。
ポイントはボトルネックの解消
PS5の超高速SSDのポイントは単純な速度の速さではないというのが面白いところでした。マーク・サーニー氏が「SSDの速度がどんなに高速になったとしても、いまのゲームにおけるデータアーキテクチャには大きなボトルネックがある」という点。
例えばPS4をSSDに搭載してもゲームのロード時間は良くて2倍程度にしかならないという。これは自分も換装してロード時間を測定しているのでよく知っている部分ですし、「なんでだろう?」と疑問でもありました。機器の速度差は2倍以上なのに。
マーク・サーニー氏のセッションでも、SSDは「10x Faster (HDDの10倍)」となっているのに、ゲーム側は「~2x Faster (2倍以下)」と表示されていました。
ボトルネックは2つあり、
- ストレージから読み込んだ圧縮データを展開するプロセス
- 展開したデータを必要なメモリアドレスに配置するプロセス
この2つがあるから、SSDの速度が速くてもゲームのロード時間は長くなってしまう。PS5のSSDが超高速と自負するのは、この問題を解消したから。
まずSSDに12チャンネルインターフェースで帯域幅5.5GB/sのカスタムフラッシュメモリコントローラが搭載されており、APU側でもカスタムI/Oコントローラが採用されている。
専門家が丁寧に解説してくれても受け取り側の基礎知識不足であまり理解できないわけですが、SSDのカスタムフラッシュメモリコントローラとAPU側のカスタムI/Oコントローラで長いロード時間の原因となっていたボトルネックを解消したって事らしいです。
ボトルネックの解消方法の解説は、
- SSDから読み出した圧縮データをKRAKEN DECOMPRESSIONがSRAMに展開
「極めて圧縮率の高いデータをKRAKEN DECOMPRESSIONで展開した場合の帯域は最大22GB/sに達する」とも - I/O COPROCESSORがデータをメインメモリ側のどのアドレスに伝送するかといったアドレス計算をする
- DMACがメモリ伝送を行う
この結果、SSDからメインメモリへ生のデータを送ったように見えるらしく、2つのボトルネックも解消されると。
SSDのカスタムフラッシュメモリコントローラには大きな特徴があり、一般的なNVMe SSDコントローラではデータがストレージにアクセスする優先度の設定が2段階しかないところ、このカスタムフラッシュメモリコントローラでは6段階あると。これがゲームにとって重要らしいです。マーク・サーニー氏は「ゲームでは、さまざまな優先度でストレージのデータにアクセスする可能性があるため」と語り、従来の2段階の優先度設定では問題があったと指摘。ここをゲーム向けに6段階にした事も劇的に変わった部分かと思いますし、PS5の超高速SSDのゲームに適した強みになっている。
マーク・サーニー氏のセッションでは、ダンジョンに入って死亡した時の例で説明されています。ダンジョンに入るとダンジョンのデータが最優先で読み込まれるわけですが、そこでプレイヤーが死んじゃうと、プレイヤーが死んだ時のリアクションをするデータを最優先で読み込む必要がある。こういった読み込みの優先度を6段階で設定できるのがゲームでは有用だと。
半分理解できたかもあやしいですが、こういう解説を見てから改めてスパイダーマンの0.8秒ロードを見ると感慨深さもある。天才と言われる開発者が技術を注ぎ込んだ結果なんだなと感じます。
Sony’s official video comparing performance of PS4 Pro vs next-gen PlayStation pic.twitter.com/2eUROxKFLq
— Takashi Mochizuki (@6d6f636869) 2019年5月21日
1つの理由だけじゃないのが重要だと思います。5.5GB/sの速さ、SSDのカスタムフラッシュメモリコントローラとAPU側のカスタムI/Oコントローラの繋がり、優先度の6段階設定、トータルで徹底的にこだわってこそ実現した速さなのでしょう。
メインメモリの利用効率が劇的に変わる
PS5のメインメモリが16GBと公表されて、最初は「少なくないのかな?」と思いました。7年前のハードであるPS4が8GBですから。GPUやストレージは飛躍的に向上しているのに、メインメモリは2倍なんだなと。
マーク・サーニー氏は「SSDの高速性は、ゲームにおいてメインメモリの利用効率も上げる」と言います。HDDやSSDからメインメモリにデータを渡すわけですが、遅いHDDはあらかじめ大量のデータを渡しておく必要があり、超高速SSDだと必要な分だけ随時渡すだけで良いと。
例えばオープンワールドゲームでデータを読み込む場合、HDDだと読み込み速度が遅いので、メインメモリにゲームプレイ30秒分のデータブロックとバッファを用意する必要があった。これでメインメモリがパンパンになって利用効率が落ちる。
超高速SSDの場合、必要な分だけを随時メインメモリに渡せば良いので、ゲームプレイ1秒分のデータブロックとバッファを用意するだけで良いと。だからメインメモリはスカスカで余裕がある。
これなら8GB→16GBでも単純な2倍じゃなく、10倍以上の余裕が生まれそうです。
超高速がSSDがゲームのロード時間だけでなく、メインメモリの利用効率に影響が与えるというのは驚きでした。
これはゲームの動作に大きく影響すると考えられますので、超高速SSD=ロードが短くなるだけ、という認識は間違いになりそうです。
ゲーム開発が楽になる
超高速SSDとメインメモリの利用効率が良くなることで、ゲーム開発が大幅に楽になると開発者が反応しています。
James Cooper氏(元Insomniac Games)は、開発終盤の大きな時間のロスとなり、バグの原因でもあるレベルストリーミングとメモリ管理について心配する必要が減ると言います。
In theory, the #PS5’s SSD means developers can worry a little less about level streaming and memory micro-management which is a huge time sink late on in the dev cycle and the source of many bugs. This means it might actually help to reduce crunch! 👍
— James Cooper (@_James_Cooper) 2020年3月19日
Anthony Newman氏(Naughty Dog)は「最も重要な部分」として、PS3やPS4でやっていたハードの制限を回避するための作業やらなくてよくなり、ゲームの開発が根本的に変わると言います。
Most crucial part of the @cerny presentation imo. The SSD in the PS5 (and all the associated IO hardware) is going to fundamentally change how we design videogames by removing limitations we’ve been working around the last two gens. https://t.co/XDcj2BJ5gV
— Anthony Newman (@BadData_) 2020年3月18日
これはマーク・サーニー氏のセッションでも触れられていましたが、オープンワールドゲームでは常にデータを裏読みしながらゲームプレイをさせています。キャラクターが不自然に歩き始めたり、長いエレベーターで裏読みさせるのも定番の手法ですね。
例えば『スパイダーマン』の場合、ポストなどの汎用的なオブジェクトを裏読みする時に、ポストのデータを探しに行く時間がかからないように、HDD内に大量にコピーして置いてあると。超高速SSDなら、こういうデータを大量コピーして置いておく作業もなくなり、容量も減る。マップを作る時にパズルのような複雑なデータ配置が不要になり、大きなマップが作りやすくもなるはず。
ゲームをプレイしているだけだとまったく伝わらない苦労ですが、開発者はとても大変だったんだろうと思います。
Kurt Margenau氏(Naughty Dog)の「みんなはゲームデザインの面でどれだけ大きな飛躍を実現できるか知らない」は、まさにその通りだと思う。実際「PS5のSSDはロード爆速」という認識だけの人が大半でしょう。凄さを実感していて興奮気味の開発者とは温度差がありますね。
Still tripping about this #PS5 SSD spec. Like, people don’t even know how big of a leap in terms of game design can be made, especially for 1st party that doesn’t have to design to lowest common denominator. By far the biggest leap in my career. Can’t wait.
— Kurt Margenau (@kurtmargenau) 2020年3月19日
PS5に特化できそうなSIEワールドワイドスタジオだけでも、JAPANスタジオ、ポリフォニー・デジタル、London Studio、Guerrilla Games、Media Molecule、XDEV – External Development Studio Europe、Naughty Dog、Santa Monica Studio、San Diego Studio、Bend Studio、Sucker Punch Productions、San Mateo Studio、Pixelopus、Insomniac Gamesがあります。SIEワールドワイドスタジオでなくても、『デス・ストランディング』や『ブラッドボーン』や『仁王』のようなパターンでも良い感じになるんじゃないでしょうか。
PS4で見せたファーストの強さがあるSIEですし、カプコンや開発力のあるサードも含めて、どんなゲームが出て来るか楽しみです。
縦マルチは旧世代の作り方か
新ハードが出てから2年くらいは縦マルチでソフトがリリースされるケースが多いです。今回はPS4とPS5ですね。そもそも互換があるので、PS4オンリーで出して「PS5でも互換で遊んでね」という売り方も多いと思う。
どちらの場合にしても、上記したような次世代のメモリ管理でゲームを作らないでしょうから、PS5に最適化したゲームに比べてクオリティの差が見えやすいかもしれない。そのあたりの事情は実際にプレイしてみないとわからない。
ポイントとしては、PS3→PS4の時よりもゲームの作り方が劇的に変わったことにより、PS4→PS5では縦マルチと独占タイトルのクオリティの差が大きくなるかもしれないということ。
理解が増した
PS5には内蔵SSDの他に「拡張可能ストレージ」と「外部接続ストレージ」があります。PS4だと拡張可能ストレージはなくて、外部接続ストレージのみでした。
まず拡張可能ストレージはSSDを拡張するもので、市販のNVMe SSDで拡張できる。拡張したSSDにPS5のゲームをインストールする事も当然可能。825GBだと足りなくなると思うので、市販品で拡張できるのは有難い。PS5発売後にSSDの互換性情報を公開すると明言しているので、公式が出してくれる情報を待ってから購入しましょう。公式が動作保証をしてくれるのも非常に助かります。
従来のUSB接続の外部接続ストレージ。これにはHDDを繋げる事もできますが、PS4ゲームは起動できてもPS5ゲームは起動できない。この件について、今回のSSDに関する記事を読んで一発で納得できた。メモリ管理のことなど、遅いHDDで動かす設計にはなっていませんからね。技術的なことを学べば「そりゃそうだろ」とだけ思う話になる。
逆にHDDで動いちゃうと、メモリ管理とか旧世代のままってことだから、ゲームのクオリティも期待できなくなっちゃいます。「HDDでも動きます」って言われたらガッカリするところです。
超高速SSDに特化できるPS5の強み。PCではおそらくロードに関するボトルネックを解消するアーキテクチャもないし、SSDに特化しづらい。となるとメモリ管理は旧世代のままで利用効率が悪く、マップの作り方などもデータのコピーを大量に置く手法が必要になる。CPUやGPUが良くても、PS5に比べて開発が難しく、ゲームのクオリティに差が生まれそうで、マルチではPCが家庭用機の足を引っ張りかねない。Xbox Series Xも含めて、家庭用ゲーム機はHDDをバッサリ切り捨てた事により、大きな変革を起こせるんじゃないでしょうか。下位機種に足を引っ張られない、1機種に特化できる家庭用ゲームだからこそできる変革。今回いろんな記事を見て、次世代機がSSDに特化するのは、恐ろしいほど大きな意味があるんじゃないかとワクワクした。今はまだKurt Margenau氏(Naughty Dog)の言う「みんなはゲームデザインの面でどれだけ大きな飛躍を実現できるか知らない」ですね。
今後もPS5の情報が出てきますが、西川善司氏や西田宗千佳氏のような専門家の記事をチェックするのが大事だと改めて思います。新型コロナでも専門家じゃない人が荒らしてしまいがち。難しい話ですが非常に面白く読ませていただきました。「パーツが良くなっただけ」ではまったくないんですよね。こういう記事でワクワクして夢を膨らませると、現物を触る時の楽しさも増すんじゃないかと思います。
コメント
世界同時発売って言ってなかったっけ?
もっともお膝元であるはずの日本が一番ネガキャンするアレな奴が多いという悲しい現実があるから優先度下がっても仕方ないと思うけど
素人レベルじゃただ超高速で凄いSSDがPS5に搭載されるって感じの理解しかできないけど
本当に搭載SSDへの凄いこだわりを感じますね
PSは3までアーキテクチャ的に凄い個性がある面白いハードって印象だったっけど
4はPCに寄ったわかり易いハードで個性は薄かった
5でまた独自色も出てきそうで面白い
後はホント発売日だけ
値段はぶっちゃけいくらでも買うけど日本の発売日は遅れるだけは本当にガッカリするから二度と止めてほしい
ロード時間の短縮や読み込み速度の強化によるゲームの進化も嬉しいですが、一番嬉しいのは今世代に多く見られる発売延期の主要な原因となっている最適化の手間を大幅に減らせるという点です。
PS4ProProになるのではないか、PCと変わらないのではないかと危惧されてきた中でユーザーの求めるものを両立させながらゲームの作りやすさを改良してきたのは流石だと思いますね。
データの蛇口を大きくしたって感じですかね。
元々扱うデータ量が膨大でも最終出力に反映されなければ意味がないので、このやり方は、家庭用ハードという限られたリソースでやりくりしなければいけない環境では正しいんだろうなって思います。
「アイデアはあったけどコストの問題で実現できない」というゲームが、PS5によってリリースされるかもしれないのは非常に素晴らしいと思います。
いつも楽しく拝見してます。次世代機の情報に興奮を抑えきれず、勢いそのままに初コメです。
家庭で最高のゲーム体験をしようと思えば高価でハイスペックなPCを用意するというのがこれまでの状況でしたが、次世代機でそれがガラリと変わりそうで驚きとともにワクワクしてます。
最低限の動作スペックは各タイトルそれぞれ定められているものの、あらゆるパーツ構成で動作しなければならない汎用性を持たせたゲーム開発をせざるを得ないPCと、ゲームのために作られたゲームのためのハードとではどちらがより優れたゲーム体験ができるか、考えてみればあまりにも明白。
世代を経るごとに安価なゲーミングPC化しつつあった家庭用ハードがここに来て、『ゲーム機』ならではの強みを得て、PCが逆にその汎用性の高さ故に苦しむことになるかもしれないとは思いもしませんでした。
PC・PS・XBOX・スペック的に可能であればSwitchでのマルチ開発(即ちそれ前提のゲームデザイン)が今の業界の潮流かと思いますが、ゲーム体験が根本から変わるレベルでハードごとの特色が出てくると、3大コンソールメーカーお抱えのスタジオ作品でなくとも独占タイトルが増えそうですね。今の所PS5は特に魅力的に映ります。
あとはどうやって次世代のゲーム体験を訴求していくかですが、PS+のフリープレイ独占タイトルが開発されているのでは? と、素人考えながら予想しています。ハードにPS+一ヶ月利用権を付属するなどしてネット環境とPS5本体さえあれば、ソフトを買わずともこれまでとは全く違うゲーム体験が即座に可能だと世間に周知できれば、大きなアピールポイントになると思うんですよね。
そうなれば、はますけさんも何度かブログに書かれていたゲームのサブスク化(PS+とPSNowの統合など)も進んでネットワーク収入が増え、コンソールメーカー最大の収益の柱となり、それを見越してハード自体はローンチ時から安価で提供する、できる! という流れになるのではないかと。妄想もいいとこなんですが、今はそう考えて発売を楽しみに待っています笑