“Tempest” 3Dオーディオ技術の定位感のわかりやすさと標準搭載という革命

ゲーム雑記

PS4世代では音にこだわりがなかったですが、“Tempest” 3Dオーディオ技術を体験して変わった。

定位感が凄い

“Tempest” 3Dオーディオ技術の凄いところは定位感です。360度上下左右に対応しており、「この位置から音が聞こえる」という正確性に優れる。
PS4世代でも横方向のサラウンドは当たり前にありましたが、3Dオーディオでは上下の聞き分けが可能なのが大きな差。まだ3Dオーディオが定着していなかったPS4世代では、空中や地下の音が自分と同じ高さの音として聞こえる事も普通でした。
PS4世代のオーディオ+ヘッドホンとはヴァーチャルサラウンドの定位感が劇的に変わっている。

“Tempest” 3Dオーディオ技術はチャンネルベースにもオブジェクトベースにも対応していて、オブジェクトベースで数百の音源をサポートできる事が実在感と定位感に繋がるようです。

空間全体の音を本物と同じように再現する事で、今までは味わえなかった臨場感を生み出す。過去記事で『映像+音+触感、三位一体で次世代の体験を生み出す』と書いていましたが、PS4世代では映像と音もズレていたのに気付く。PS5では映像とシンクロ率が高い3Dオーディオが実現し、その場所が本当に存在するかのような実在感と臨場感へと繋がる。この点は『MAIDEN』で体験しやすかった。音の力によって背後の世界も感じられる。

私はPS4世代では音にこだわりがなく、ヘッドホンの感想でも「ずっと使い続ける周辺機器は『使いやすさ』がとても重要」と書いていて、音質は気にしないけど使いやすい製品を支持していた。
もしPS5での音の進化が「クリアである」「低音の迫力がある」「こもっていない」とか従来の基準なら、向上していても関心がなかったと思う。
“Tempest” 3Dオーディオ技術のヘッドホンによるヴァーチャルサラウンドの定位感を体験して、これはPS4世代のヘッドホンとは評価軸が違うものだと思い、重要なポイントになった。

最適化タイトル以外は普通

公式サイトでは、

Q.3DオーディオはPS5のすべてのゲームに対応していますか?
A.はい。PS5の“Tempest” 3Dオーディオ技術により、シンプルなチャンネルベースのオーディオであっても、音の次元の広がりを感じていただくことが可能です。3Dオーディオによる効果はタイトルによってさまざまですが、ゲームデベロッパーの皆さんに最適化していただくことで、その効果をより鮮明に感じていただけるでしょう。

と書かれており、一応はPS5版ゲームの全タイトルが3Dオーディオに対応している事になっている。しかし、これは罠と言えるほどの落とし穴に感じました。
最適化されていないゲームでは、従来の音との違いを感じないレベルです。そもそも私が“Tempest” 3Dオーディオ技術の凄さを実感したのは、最適化されているゲームとそうでないゲームに大きな差を感じたから。

具体的にはPS5版『The Sinking City』とPS4版『サイバーパンク2077』で、敵の声(音)が聴こえるのに、その方向に敵がいない事が度々ある。その場合は上の階か下の階にいるのですが、3Dオーディオに最適化されていないため、同じ高さのように聞こえてしまう。定位感が曖昧であり、最適化されたゲームを体験した後だと、映像と音のズレを感じて没入感を削ぐ。

最適化されていないゲームやPS4版ゲームを後方互換でプレイしても、“Tempest” 3Dオーディオ技術の凄さは、あまり感じられないでしょう。

ちょっと面白かったのが、最適化されているゲームではなく、最適化されていないゲームで“Tempest” 3Dオーディオ技術の定位感の良さに気付いたところ。現実世界と同じような音だと自然すぎて、意識して聞き比べないと「すげぇ」って思いにくい気がする。その自然な音を体験した後にPS5版『The Sinking City』やPS4版『サイバーパンク2077』をプレイしたら、「全然違うところから音が出てるじゃん」と気付き、映像と音のズレに違和感を覚えるようになってしまう。

チューニングされたヘッドホン推奨

将来的にはテレビスピーカーでも“Tempest” 3Dオーディオ技術の対応を予定しているようですが、現時点ではヘッドホンにのみ対応しています。
PS5™の“Tempest” 3Dオーディオ技術は対応ヘッドセットで発売日から体験可能! テレビ用バーチャルサラウンドサウンドも今後実装予定 – PlayStation.Blog

まずSONYの『PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット』は、PS5の3Dオーディオ向けにチューニングされています。そして『ARCTIS 7P』も「PlayStation 5向けにデザイン」「PlayStation 5のTempest 3D AudioTechに完全対応」と謳われています。

これら以外のヘッドホンでもPS5の3Dオーディオに対応しているわけですが、“Tempest” 3Dオーディオ技術の定位感を味わうためには、最適化されていないと物足りなさを感じやすいかもしれない。

PS5×SteelSeries『Arctis 7P』Tempest 3D向けヘッドセット レビュー│HowMew[ハウミュー]
↑オーディオ機器に詳しいブログにて、『PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット』と『ARCTIS 7P』と『A40 TRヘッドセット + MIXAMP PRO TR』の比較をしておられますが、『PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット』と『ARCTIS 7P』の定位感が10点、27,390円の『A40 TRヘッドセット + MIXAMP PRO TR』で9点、“Tempest” 3Dオーディオ技術向けに最適化されているかどうかの差があるという結果。

私は“Tempest” 3Dオーディオ技術は定位感が最大の魅力だと感じていますので、最適化されていないヘッドホンで聞くと、魅力を削ぐ危険性があるんじゃないかと思う。

  • PS5の全ゲームに対応 → 最適化されていないと普通レベル
  • 互換性のあるヘッドホンに対応 → 最適化されていないと定位感が落ちる

この2つは落ちやすい罠だと思う。実際、“Tempest” 3Dオーディオ技術に関する感想を見ても「最適化されていないゲーム」「そもそもPS5版じゃなくてPS4版ゲーム」「最適化されていないヘッドホン」で試しているケースがチラホラある。なにせ公式で対応していると言っているのだから仕方ない。
まぁヘッドホンに関しては、そこまで大きな差は出ないかもしれない。素人が聴き比べて差を感じられるかどうかまではわからない。ゲーム側の最適化に関しては明確な差が出る。

ゲームを購入するかどうかの重要なポイントにもなるので、Storeに「Tempest最適化認証」みたいなマークがあれば良いのになぁと思います。

標準搭載が素晴らしい

“Tempest” 3Dオーディオ技術の革命的なポイントは、PS5に標準搭載である事。いくら素晴らしい定位感であっても、ソフトやユーザーが使わなければ意味ないです。
実際、PS4にも3Dオーディオはあったのですが、対応しているゲームは少なかった。後付けの機能だとソフト側は対応を渋ります。最適化されるかはともかく、PS5版ゲームは全てのゲームが“Tempest” 3Dオーディオ技術を使うことになる。ユーザーはヘッドホンを繋ぐだけで3Dオーディオを体験できる。この環境なら、ソフト側も最適化に前向きになりやすい。

今となっては伝説的な講演となった2020年3月19日の『The Road to PS5』。
The Road to PS5 「PS5への道程」 全文日本語訳 ~マーク・サーニー氏の技術解説講演~ – The Road to Next Gen Ludens
ここでマーク・サーニー氏は、
「最初の目標は、すべての人に素晴らしいオーディオを提供することでした。VRユーザーやサウンドバーをお持ちの方、ヘッドホンをお使いの方だけではなく。つまり、オーディオはゲーム機の一部でなければならず、周辺機器であってはならないということです。」
「ライセンスを受けたサウンドバー等を使用している人だけでなく、すべての人に3Dオーディオを提供したいと考えていました。」

と述べています。これは家庭用ゲーム機を開発するプロらしい考え方。PCとは違い、家庭用ゲーム機では後付けじゃダメなんです。さらに標準搭載であっても、ソフトメーカーの対応のしやすさが求められる。
「特に3Dオーディオの推進は、開発者とのミーティングから生まれたものではなく、むしろ、今から5年後に何が可能になるのかという夢を持っていて、それを実現するためにいくつかのステップを考え出した」
「3Dオーディオで私たちの究極の目標を達成するためには、何年もかけて段階的に進める必要があることは明らかです。とはいえ、現時点ではヘッドホンオーディオの実装はほぼ完了しています。」

というコメントもあり、ヘッドホン以外への対応も着々と進行しているかと思います。PS5では3Dオーディオが当たり前になる。そうなった時、ほぼ全てのソフトが最適化を選択するのではないでしょうか。

3Dオーディオとしての品質以上に、これを標準搭載して当たり前のものにするという事のほうが革命的。マニアックな存在のままでは、ゲームに浸透しない。
3Dオーディオ自体は目新しいものではなく、オーディオマニアからしたら「今さら」かもしれない。でも私もそうですが、PS5で標準搭載された事で、3Dオーディオの凄さを知る事ができた。“Tempest” 3Dオーディオ技術を総合的に評価する時、ここの壁を破った意味と凄さに気付くかどうか。

ちなみに『The Road to PS5』が伝説的だと言うのは、公開された当時はあまり意味がわからず、そもそも多くの人が技術的な講演だと理解していなくてガッカリ感を持たれていた。PS5が発売され、実際に触れてみる事で「こういう事だったのか」と既に出されていた答えに気付かされる。
例えば、講演の中で「敵が正確に『そこ』にいることが分かる」と言っていました。その10ヶ月後、私が『MAIDEN』を体験した感想で「音は凄かった。あの樽から水のしたたる音が聞こえて、その隣の樽の中で暴れるような音が聞こえるという、『そこの音』がわかる3Dオーディオ」と書いていて、今見直してみたら結果的にマーク・サーニーが出していた答えをなぞる結果だったなぁと気付いた。

“Tempest” 3Dオーディオ技術のレビュー記事リンク

PS5『PULSE 3Dワイヤレスヘッドセット』レビュー・感想│HowMew[ハウミュー]
【レビュー】PS5の“Tempest 3Dオーディオ”を体験、純正ヘッドセットは買いか!? – AV Watch
PS5自慢の立体感のある3Dサウンドを『Demon's Souls』と『ASTRO's PLAYROOM』で体験!

この素晴らしい3Dオーディオの世界が簡単に体験できるのが素晴らしい。

「素人でもわかる定位感」と「標準搭載」

私は音にこだわってこなかったので、オーディオの事は詳しく知らない。とりあえず、音にこだわらなかった私でも、PS5版ゲームに“Tempest” 3Dオーディオ技術への最適化を強く求めたくなるほどのものがありました。

その凄いところが「素人でもわかる定位感」「標準搭載されている」という話。

音質がマニアを唸らせるとか、そういうマニアックじゃない部分で、わかりやすい3Dオーディオを一般に浸透させる狙いが革命的。
とは言え、まだ道の途中。次はテレビ用バーチャルサラウンドサウンドが来た時、大きな衝撃になるかと思う。ヘッドホンを別途購入では、まだ敷居の高さがある。

ソフトメーカー側のライセンス料はわからないけど、標準搭載だからさすがに別途徴収はないと思う。ミドルウェアは起動時にロゴの表示義務があったりしますが、Tempestには表示義務はなさそう。こういう点でSONY製の優位性もある。

「素人でもわかる定位感」を画質で言えば、SDからHDに変わった時のようなわかりやすさ。ここからはマニアを唸らせる音質を目指す事になると思うけど、そのレベルになると一般には響きにくい差になってくるとも思う。ダイナミック4Kとネイティブ4Kの差のように。

そして、映像+音+触感の三位一体で生み出す臨場感が素晴らしいってこと。

コメント

  1. Pa より:

    こんにちは!
    いつも楽しく記事見させてもらっております。
    このPulse3Dヘッドホンで音の定位がわかりやすくなる
    っていうのは少しミスリードな気がします。

    この記事、PS4で定位(上下)がわかりずらいのはUSBから音を取ってるから…って話なんですかね?
    「空中や地下の音が自分と同じ高さの音として聞こえる事も普通でした。」
    これよく某匿名掲示板でも話題になりますが、
    PlayStationはUSBから音とるなら純正以外全部2.0ch(2.1ch)になり5.1(7.1)chのヘッドホン使っても擬似的な5.1(7.1)chになり上下等の音の定位がわかりずらくなります。
    多分ご存知だとは思いますがm(_ _)m

    ただ光デジタルで音を繋げると話は別でちゃんと5.1(7.1)ch出ますし音の定位もハッキリわかります。

    その上で、上下がわかりずらいゲームはどんなヘッドホン使ってもわかりずらく元々の仕様です。PS4(5)ではそういうゲームが増えましたよね。
    PS3とか昔のCoDなんかは音ゲーといわれるぐらい音だけで壁抜きできる程の定位のわかる音仕様だったのでゲームソフトメーカーなりの改善なんですかね…自分にとっては改悪ですが、笑

    自分もこのPulse3Dヘッドホンは当初楽しみにしていて、PS5と同時にPulse3Dを買いアストロ含め色んなゲームで聴き比べましたが
    普段から5.1(7.1)chでゲームをプレイしてる人はこのPulse3Dで定位がわかりやすくなるとは絶対に感じないと思います。
    音響のプロとかなら分かるのかもしれませんが…
    fps含めたゲームプレイにおいて定位の違いがわかるゲーマーがいるのか疑問です。。。

  2. MI より:

    記事と直接関係ないけれど新ニュースです

    ソニー、VR端末の第2世代 PS5向けに導入
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ2319P0T20C21A2000000

  3. sola より:

    素晴らしいと思うのですが、肝心の最適化された「PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット」が、少なくとも日本では在庫がなくて、終売扱いになってるんですよね……
    私も通常のヘッドホン・イヤホンとPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットで聞き比べてみたかったのですが、手には入れられていません
    同じく純正充電スタンドも終売扱いになってますし、本体がAPUの供給の問題で数が揃えられないのは分かりますが、周辺機器まで供給しないのは全く理解できません

    • Hamasukei Hamasukei より:

      たしかに。
      決算発表の時に、本体は赤字だけど周辺機器は黒字なので、そこでカバーできるような事を言っていたのですが、その周辺機器が用意できていないのはもったいないところです。
      ゲームソフトと違って長期的に売れるでしょうし、出荷に消極的になる必要もなさそうですが。

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