PS5で凄いのは“超高速SSD”ではなく“ストレージアーキテクチャ”

Uncategorized

最近はテック系の記事や動画が面白くて、自分のブログでもまたまたSSDに関する記事。長いですけど言いたいことは3つ。

  • 凄いのは“超高速SSD”ではなく“ストレージアーキテクチャ”
    SSD自体はPCと比べて普通。ストレージアーキテクチャは、ティム・スウィーニー氏が「PS5のストレージアーキテクチャは、今買えるどんな高価なPCをもはるかに凌駕しています」と言うほど。
  • ロードが速くなるだけじゃなくてグラフィックも良くなる
    メモリ管理が変わり、ローポリの粗いオブジェクトを置かなくてよくなる事が大きそう。
  • オススメの情報元
    Youtube: かいかいのテクノロジー&情報
    ブログ:The Road to Next Gen Ludens

凄いのは“超高速SSD”ではなく“ストレージアーキテクチャ”

PS5の最も大きな特徴として見られているであろう“超高速SSD”。公式のPlayStation.Blogでも“超高速SSD”という言葉を使っていて、キャッチーな言葉ではありますが、逆に誤解を生むこともあるかと思う。本当に凄いところはSSD本体そのものではなくて、ストレージアーキテクチャのようです。

SSDは「普通に速い」

PS5のSSDはシーケンシャルアクセス速度が5.5GB/s、SSDコントローラは12チャネルアクセスでPCI Express 4.0対応、容量は825GB。ライバル機であるXbox Series Xのシーケンシャルアクセス速度2.4 GB/sですので、倍以上速いことになる。しかし、PCにおいては2020年末に7.0GB/s以上のSSDが出回りますので、PS5のアドバンテージはなくなる……あくまで単純なシーケンシャルアクセス速度においては。ゆえにPS5のSSD自体は「普通に速い」という言葉がフィットするレベル。革命的ではありません。

理論値のシーケンシャルアクセス速度にあまり意味がない

PS4のシーケンシャルアクセス速度が50~100MB/s程度で、PS5が5.5GB/s、2020年末にPCが7.0GB/sを超えてくるという話で、数字上は派手なインフレになっていますが、ゲームにおいて、この数字だけではあまり意味を感じにくい側面もあります。
Youtubeで旧世代と新世代のSSDの比較動画がありますが、驚くほど差が……ないです。


抜き出すと、

  • 【旧世代】Samsung 860 EVO
    読み込み速度 500MB/s
    アサシン クリード オデッセイ – 31.58秒
    グランド・セフト・オート5 – 31.05秒
  • 【新世代】Sabrent Rocket NVMe 4.0 Gen4 PCIe M.2
    読み込み速度 5000MB/s
    アサシン クリード オデッセイ – 29.50秒
    グランド・セフト・オート5 – 29.27秒

読み込み速度は500MB/sと5000MB/sで10倍差なのに、ゲームのロード時間はほぼ一緒。こういう結果を見ちゃうと、ゲーミングPCやゲーム機において「シーケンシャルアクセス速度が5.5GB/sになった!」「7.0GB/sになった!」だけでは、まったく喜べない話です。

求めるのは理論値ではなく、ベンチマークソフトの結果でもなく、ゲーム以外の用途での使い勝手でもなく、ゲームにおける実効速度。

凄いのは“ストレージアーキテクチャ”

シーケンシャルアクセス速度はPS5が5.5GB/sで、PCは7.0GB/sを超えるようになる。が、そもそもPCでSSDを置き換えただけでは、500MB/sで31秒のロードが5000MB/sで29秒になる程度の差しかない。
ではPS5の“超高速SSD”はどこが凄いのか?それは既にPS5のリードアーキテクトを務めるマーク・サーニー氏とEpic GamesのCEOであるティム・スウィーニー氏が述べている。

マーク・サーニー「SSDの速度がどんなに高速になったとしても、いまのゲームにおけるデータアーキテクチャには大きなボトルネックがある」
いろいろ記事を読んでPS5の超高速SSDの凄さを知る – PS4ちゃんねる Pro

ティム・スウィーニー「PS5のストレージアーキテクチャは、今買えるどんな高価なPCをもはるかに凌駕しています。」
Epic Games: Unreal Engine 5 will bring a generational change to graphics | VentureBeat

f:id:Hamasukei:20200524170103j:plain

ボトルネックが何かは過去記事に書いております。PCにおいては500MB/s→5000MB/sに乗せ換えてもロード時間が31秒→29秒にしかならない原因の1つであろうボトルネックが解消され、PS5では50~100MB/s→5.5GB/sの変化で、ほぼ額面通りの「100倍速い」を達成したと。

f:id:Hamasukei:20200524170204j:plain

このように、凄いのは“ストレージアーキテクチャ”であり、ハイスペックPCに対してもPS5が大きなアドバンテージを持つ部分。マーク・サーニー氏の技術解説でも凄さを感じていましたが、作った人が自分の作品を良く言うのは当たり前という部分もあった中、ティム・スウィーニー氏が「一番速い」と太鼓判を押した意味は大きい。

ロードが速くなるだけじゃない

最初にPS5の情報が出たのは2019年4月16日。ここで紹介された“超高速SSD”により、PS5はロード時間が速くなるという認識は既に多くの人が持っていると思います。

2020年3月18日のマーク・サーニー氏による技術解説で“超高速SSD”の力がロード時間の速さだけじゃないという話をして驚きでした。メモリ管理も劇的に変わると。
いろいろ記事を読んでPS5の超高速SSDの凄さを知る – PS4ちゃんねる Pro

そして2020年5月14日のアンリアルエンジン5のデモが衝撃的でした。ゲームの作り方が変わり、グラフィックにまで影響を及ぼす。従来の考え方であれば、SSDに変わったくらいでグラフィックが良くなるわけないじゃんと思うのが普通。その常識がブッ壊れた。

“超高速SSD”によってグラフィックが良くなる理由は1つじゃないと思いますが、わかりやすいのが、メモリ管理の変化によりローポリの粗いオブジェクトを置かなくて良くなった事。従来のHDDは遅いので、あらかじめメモリに大量のデータを送っておく必要があった。でもメモリのサイズは小さいから、送るデータも小さくしておかないと入りきらない。そのため、遠くにあるオブジェクトはローポリの粗い物を作り、データを軽くしていた。Digital Foundryが『Hellblade』で具体例を見せており、遠くにある粗い岩に近づくと高精細の岩に置き換わっています。

f:id:Hamasukei:20200524191105j:plain
UE5のデモでは、遠くの岩もキレイに見えました。ローポリの粗いオブジェクトを置く必要がなくなり、画面全体で見れば大幅にグラフィックが良くなる。これはGPUの強化よりも劇的な変化かと思います。
Digital FoundryがXbox One XとXbox Series Xの比較動画をアップしていますが、現行機で高精細な部分はほとんど変わらない。画面を重ねたり拡大して違いを見つける高難易度の間違い探しのようです。こういうところはIGNで「次世代機のグラフィックスへの期待値を下げておくべきなのかも」と言われる部分かと思う。


こういう部分よりも、ローポリの粗いオブジェクトを置かざるをえなかった問題が解決される“超高速SSD”のほうがグラフィックの向上を感じやすいんじゃないかと思う。今『マフィアIII』をプレイしていますが、こういったオープンワールドゲームでは遠くの建物が粗い。これが変わるなら劇的な変化のはず。
ローポリの粗いオブジェクトは白いシーツに付着した1点の染みのようなもので、1%の悪い部分が99%の良い部分よりも目立ってしまうかもしれない。上に貼った画像は赤丸をしているので目立っていますが、赤丸がなくてもローポリの粗い部分が一番目立っていると思います。

PS5+UE5の凄さは西田宗千佳氏の記事がわかりやすいです。

「PS5+Unreal Engine 5」驚異の画質とゲームに留まらない革新【西田宗千佳のイマトミライ】-Impress Watch

名前がほしい

公式のPlayStation.Blogが“超高速SSD”という言葉を使うのも仕方なし。”超高速Storage Architecture”と言われても伝わりにくいでしょうしね。

UE5ではそれぞれの機能に“Lumen”“Nanite”という名前をつけていましたし、PS5でも3Dオーディオは“Tempest Engine”という名称がある。ハイスペックPCをも凌駕するPS5の最重要ポイントであるストレージアーキテクチャにも名前をつけたほうが良いんじゃないかと思います(あるかもしれないけど未確認)。“超高速SSD”のほうが今はキャッチーなんですけど、PCで7.0GB/s以上のSSDが出回り始めたら遅いと誤解されそう。

Xboxの“Velocity Architecture(ヴェロシティ・アーキテクチャ)”

ストレージアーキテクチャによって従来のボトルネックを解消し、実効転送速度を向上させるシステムはXbox Series Xでも採用されている。それが“Velocity Architecture(ヴェロシティ・アーキテクチャ)”です。考え方としてはPS5のストレージアーキテクチャと同じかと思います。

Xbox公式の「Xbox Series X – Loading Times Tech Demo」という動画で、後方互換のある『State of Decay 2』を使用してロード時間を比較しています。

Xbox Series X(SSD)では約10秒、Xbox One X(HDD)では約50秒という結果。速くはなっていますが、Sonyが2019年5月のIR Dayで見せた『スパイダーマン』のロード時間動画(8.10秒→0.83秒)の後だとインパクトが弱い。
SSD自体のシーケンシャルアクセス速度に大きな差があり、同じようにボトルネックを解消してもゲームのロード時間ではPS5との差が見えるかもしれない。
特許による技術的な差も考えられる。SonyはSSDやゲームの読み込みにする特許の申請に積極的でした。
特許6209573 / 特許6243884 / 特許6254986 / US6764403B2

“Velocity Architecture(ヴェロシティ・アーキテクチャ)”はPS5にとっても重要であります。ストレージアーキテクチャによって従来のボトルネックが解消され、ゲームの作り方が大幅に変化するなら、PS5だけが異次元の速さであってもサードパーティーが対応してくれなさそうです。Xbox Series Xでも同じように作れないと業界全体に革命的な変化は生まないかもしれない。“Velocity Architecture”はそれを叶えてくれる可能性がある。

オススメの情報元

PS5の技術に関するオススメの情報元。

まずYoutubeのかいかいのテクノロジー&情報さん。
海外動画の翻訳と解説が非常にわかりやすく、一次情報からの翻訳・解説として見やすい。
中でも一番オススメなのが、Digital FoundryがUE5のデモを解説している動画の翻訳と解説。UE5の凄味を感じることができました。
UE5の情報を漁っている時に見つけたのですが、そこから数日でチャンネル登録者数が3倍くらいになりましたので、今かなり注目度が高いチャンネルかと思います。

 

ブログではThe Road to Next Gen Ludensさん。
こちらも海外記事や動画の翻訳と解説があり、一次情報からの翻訳・解説として読みやすい。
2020年2月に開設したようで、最近見つけて感涙ものでした。

ライター/ジャーナリストでは、西田宗千佳氏と西川善司氏がゲーム記事多めなので、よく読んでいます。Twitter経由で記事を見つけられるかと思います。
西田宗千佳氏 Munechika Nishida (@mnishi41) | Twitter
西川善司氏 西川善司 (@zenjinishikawa) | Twitter

今はテック系の話題が一番面白い時だと思います。新しい物が少しずつ見えているし、それを見ての想像の余地も大きい。全貌が見えたら落ちつくかと思うので、断片を見ながら妄想できる今が最高です。
変化が生まれている中、なまじ古い知識が豊富な人ほど情報を吸収しにくいんじゃないかなと感じるところもあります。「超高速SSDでグラフィックが良くなる」「読み込み速度が500MB/sでも5000MB/sでも大きな違いはない」「3300万ポリゴン」「高価なPCをもはるかに凌駕」とか、PS5発表前の常識なら吸収しにくい内容。なので上で紹介したような、一次情報の翻訳や解説や掘り下げが有難い。

タイトルとURLをコピーしました