ビジュアルノベルのためのVR『東京クロノス』感想


2019年8月22日にリリースされた『東京クロノス』の感想。

ストーリーが良かった

VRゲームとして期待して購入したゲームですが、ビジュアルノベルとしてストーリーが良かった。ざっくり言うと85点のシナリオがVRによる沁み込ませ効果で1.25倍されて106点の満足がありますが、非VRゲームだったとしてもストーリーが気になって没頭できたと思う。VRでやってこそ最高なのですが、せっかく面白いストーリーなので非VR版を出しても良いんじゃないかと思うほど。

 

渋谷に閉じ込められた幼馴染の男女8人が、誰かを殺した犯人を見つけろというミッションを与えられるのがプロローグ。記憶を部分的に失っていて、そもそも誰が殺されたのかすらわからないところから始まる。記憶を思い出す度に浮かび上がる真実に鳥肌が立ったり泣けたりする。
ミステリーだけど殺人の犯人を探すのがメインだとは感じなかったり、ホラー要素もないし、閉じ込められる密室系っぽくもあるけど殺し合いゲームでもない。ビジュアルノベルの中では斬新なスタイルに感じられました。そこがとても良かった。キャラクターはよくある感じですけどね。
気になる謎の出し方も上手いし、目の前にニンジンをブラ下げられた馬のように走り続けてプレイが止まらないゲーム。設定からしてブッ飛んでるファンタジーなので好みが分かれるところではあると思います。

 

渋谷には男女8人しかいないわけですが、男女それぞれ4人なのも良かった。ビジュアルノベルは男が少ないハーレム系も多いですが、これはバランスが良かった。そのおかげで友情物語として上手く描けていた。
キャラクターがあまり暴走しないところも好みです。面倒くさくこじれそうだなぁと思った展開でも、物分かりが良かったりする。やっぱり絆の深い仲間なんだなとも感じた。

 

クリア後は心が洗われたような気分になり素晴らしい余韻を残しましたが、部分的にはストーリーの穴というか無理があるところも感じた。一番納得がいかなかったのは、そもそもの事件のきっかけ。発想が「斜め上に行き過ぎだろ」と思ってしまい、そのせいでそれまでのキャラクターたちの友情や成長もウソくさくなり、白けそうにもなった。ご都合主義すぎるところもありましたが、これは良い気分になれたのでオッケー。

VRゲームとして

まずこのゲームは体験版がありますので、興味のある人は体験したほうが早い。

 

ビジュアルノベルゲームにもいろいろありますが、このゲームは9割以上が読み物。ゲーム全体を通して選択は7回のみですし、全部2択。とてもシンプルな構造になっています。1回目の選択が発生するまで時間がかかったので、最初は読み進めるだけのゲームかと思いました。決定ボタンを長押しするとAUTO PLAYになり、コントローラーを置いて視聴することもできる。
はっきり言えるのは、コントローラーでいろいろ選択したり操作したい人には向かないです。

 

VR+ビジュアルノベルは『マヨナカ・ガラン』をプレイしており、VRだからこその効果もそれと似ている。ゲームの世界に入ってキャラクターの目線で世界を見るのは、ストーリーの感じ方や染み入り方が非VRとは段違い。視界も360度がゲーム世界になり、現実世界がまったく見えなくなって没頭できる。視聴でも読書でもなく、自分の体験に近くなる。

 

「ビジュアルノベルをVR化しただけ」でさらに言うと「紙芝居ゲーをVR化しただけ」っぽくもあるんですけど、そこに革命的な凄さがある。ビジュアルノベルは進化が止まったようなジャンルでもありますが、VRによって一皮剥けたジャンルだと感じる。非VRでは感じられなかった世界とキャラクターの近さ、それによってストーリーが主観的に楽しめるし体験できる。ビジュアルノベルはストーリーやキャラクターの魅力がゲームの一番の魅力になりますが、その一番大事な部分がVRで増幅される。アクションゲームだとVRでの作り方の難しさもありますが、ビジュアルノベルは簡易的な対応でも単純に魅力が増幅される。過去の名作もVRで体験したいと思ってしまう。
「空を見る」という行為1つをとっても、キャラクターの目線で見上げる空は別世界の本物の空といった感じ。素晴らしいです。


なんてことない背景だけの場面でも、VR内でそこに立つと、その場所にいる感覚が生まれる。

 

VRゲームとしての技術的な驚きはほとんどなくて、ビジュアルノベルを素直にVR化した印象。紙芝居的であり、キャラクター動く場面でも立ち絵が切り替わる感じ。立ち絵の動きは口の動きとまばたきくらい。たまにスムーズに動かしているところもありますけどね。
キャラクターやオブジェクトのサイズが安定しない印象もあり、それが面白い味とも言えるけど、画の不安定さも感じる。個人的にはリアルな頭身を感じられたほうが良かったんじゃないかと思う。非VRだと不安定な味も面白いですが、VRだと臨場感が薄れるマイナス面の方が大きいと思った。

アニメ調の絵は粗が出にくいですし、素材も軽いでしょうからVRゲームでキレイに表現しやすい。改めてVRに向いているなぁと思いました。背景が簡素だったりして安っぽさを感じるところはありますが。
テキストは読みやすくて良いです。ビジュアルノベルゲームとして不便を感じませんでした。セーブもいつでもできる。


VRらしさを存分に出しているわけではなく、あくまで紙芝居的ビジュアルノベルを素直にVR化したという印象。
テキストをOFFでプレイすることはできません。セリフはフルボイスですが、心の声はテキストのみですのでね。この部分でもVR特化ではない割り切りが感じられます。VR世界でのテキストは違和感も覚えますが、そこは意識していないというところからも、軸足はしっかりオーソドックスなビジュアルノベルに置いているのがわかる。

 

「VRでやる意味ないじゃん」と思いそうですが、むしろVRを意識しすぎた失敗をしていないことのほうが大きいと思う。VRとしての画作りにこだわりすぎてテキストを消すことによってテキスト(音声)の早送りができなくなったり、キャラクターの動きにこだわりすぎて待ち時間になったり、そういうテンポの悪さはない。
360度がゲーム世界のVRでのプレイになるだけで凄いんだから、従来のビジュアルノベルの読みやすさやテンポの良さを大事にした判断は正解だと思う。絵のクオリティにはやや不満も残りますけどね。

獲得しやすいプラチナトロフィー

ビジュアルノベル系のゲームはプラチナトロフィーが獲得しやすいケースが多いですし、このゲームもそうです。2択分岐が7回のみなので、攻略情報いらずの総当たりでプラチナトロフィーが獲得できます。

エンディングロールで余韻に浸った後、タイトル画面に戻ってプラチナトロフィーが獲得できるフィニッシュは最高でした。良い気分で終われました。

ビジュアルノベルのためのVR

やっぱりVR化してもビジュアルノベルはストーリーが一番大事だなと思います。単純にVRゲームとして見れば安っぽさも感じるほどですが、非VRゲームでも通用するストーリーにVR効果を加えて魅力を増幅させている。あくまでVRは添え物ですが、効果的に機能している。
添え物と言うと重要度が低く感じてしまいそうですが、ビジュアルノベルを美味しくいただくには、この取り入れ方が良いと思うんですよね。VRのためのビジュアルノベルではなく、ビジュアルノベルのためのVR。軸足の置き方が良かったと思う。
新しいハードなりガジェットは、それを有効活用しようと意識しすぎたゲームが出がちで、それはそれで瞬間的には面白いのですが、インパクトはあっても浅くて続かないゲームがほとんど。非VRとして育ったジャンルの魅力を生かしつつ、VRで味付けするというのが堅実だと思います。

 

酔いにくいですし、操作も簡単すぎるほどなので、VR初心者でも入りやすい。

 

満足度は非常に高い。既にSteamでも94%(77件)が好評という高い評価も得ていますしね。評価に違わぬといった感じ。
結局のところ合うか合わないかはストーリーの好み次第ではあります。このゲーム世界の中で最後に見上げた空は素晴らしかったし、クリア後に素晴らしい余韻を残してくれるゲームに出会えたのは嬉しい。

 

TOKYO CHRONOS (PSVR専用)- PS4

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