洗練された美しさ『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』の感想

ゲームの概要・感想

SIEワールドワイドスタジオがPS4最後の大作として送り出した大傑作。『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』の感想。

オーソドックスながら絶賛多数の大傑作

発売前のトレーラーでは、オーソドックスなオープンワールドゲームのフォーマットで舞台が日本のゲームという印象でした。実際、開発元のサッカーパンチが『インファマス』シリーズで培ったものに『アサシン クリード』シリーズと『ウィッチャー3』の影響を強く受けたオープンワールドゲームでした。印象通りだったのですが、驚くべき中毒性のあるゲームに仕上がっていた。Twitterの反応を見ても絶賛多数ですし、個人的にも2020年で一番ハマったかと思います。

よくあるオープンワールドゲームのはずが、尋常ではない中毒性を持つ。

戦闘の受け流しからのバッサバッサ感

で速打、で強打、で回避、L1で防御、敵の攻撃に合わせてL1で受け流し。回避と受け流しは技を習得することにより、ギリギリで発動することでスローになって反撃チャンス。
このようにアクションゲームとしてオーソドックスな操作設定。オーソドックスなんですけど中毒性が高い戦闘になっている。

4種の「型」があり、それぞれに固有技もあります。サイドストーリーの「伝承」で習得できる必殺技もある。基本操作はオーソドックスですが、習得できる技を絡めることで、自分なりの戦い方をデザインできる。

モーションが素晴らしい

(速打)が速さと鋭さを兼ね備えていて気持ち良い。構えや日本刀を振るモーションも本物らしく、『鬼武者』のようなバッサバッサ感がある。回避と受け流しのモーションも華麗であり、攻守の切り替えの一連の動作が美しい。納刀も。

映画の中の侍のようにカッコ良く美しく戦える。「動かしていて楽しい」は長旅になるオープンワールドゲームにおいて重要なポイント。
戦闘システムとしてはUBIやワーナーやSIEらのゲームと似ており、結局のところほとんどのゲームにおいて重要なのはボタン押しのタイミング。モーションのカッコ良さ、ボタンを押した時の反応の気持ち良さで大きな差がつく。この点において本作は他のゲームよりも良い出来。

爽快感と緊張感のバランスが生み出す中毒性

回避や受け流しの入力タイミングは難しくなくて安定して成功し、反撃でバッサバッサと気持ち良く斬れる。これだけだとヌルくなってしまうところですが、油断して敵の攻撃を受けると体力が大幅に削られるので、一瞬の油断もできない緊張感のある剣戟に仕上がっている。
華麗に受け流してからバッサバッサと敵を斬る爽快感と、敵に斬られると一瞬で窮地に陥る緊張感、爽快感と緊張感を兼ね備えた戦闘になっています。

この爽快感+緊張感が生み出すのは中毒性。スリルを感じながら気持ち良く攻撃する行為はドーパミンを生み出す。これが『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』にハマる大きな要因となっているかと思います。パッと見はよくあるアクションゲームの戦闘スタイルなんだけど、微量なドーパミンを生み出す中毒性があり「やめられない」状態になる。

素晴らしい要素がいくつもあるゲームと言えど、戦闘を繰り返すオープンワールドゲームですから、戦闘に中毒性を持たせているのは強すぎた。開発者によると5年かけて作ったそうですが、その価値はありますね。

そして短期決戦。一瞬で敵を殺せるし、逆に殺されるかもしれない生死をかけた戦闘。体力が多い敵を日本刀でガシガシ削るような状態ではない。これも戦闘を繰り返すオープンワールドゲームで超重要であり、1回の戦闘が長くなるとダレやすくなる。

使いやすく回復システムも良い。方向キー下を押すだけで、気力1を消費してモーションなく瞬時に体力を回復する。一旦逃げて包帯を巻くとか、カッコ悪いプレイをしなくても良い。
リアルにカッコ良くするべきポイントと、ゲームとして遊びやすく省略するポイントを上手く分けられている。アイテムや素材を拾う時もモーション無しでサッと入手できたりして便利です。なんでもかんでもリアルにしてテンポが悪くなると良くないですからね。

時代劇っぽく待ってくれる

数人の敵と同時に戦うことが多いゲームですが、この調整の上手さも光った。死にゲーにおいて、数人の敵と同時に戦うのは非常に難しく、やっかいな要素にもなりがちです。しかし、このゲームは多人数戦も楽しい。

最大の要因は時代劇っぽく待ってくれる敵。例えば3人に囲まれても、3人同時に斬りかかってくることはまずないです。1人が斬りかかってきて、残り2人は待ってくれる。時代劇のチャンバラでよく見る状態であり、それっぽく戦える。この敵役の「待ち」の上手さが多人数戦を劇的に面白くしている。

時代劇っぽいと言えば、斬られた敵のリアクションもそれっぽいです。

カメラはやや不満

素晴らしい戦闘ですが、不満点を挙げるならカメラ。敵が視界から外れやすく、手動でカメラを動かして追うにしてもカメラの最大速度も速くない。カメラが寄って迫力ある映像なのは良いのですが、見やすい離れた視点もほしい。

楽だが武士らしくないステルス

ステルスは『アサシン クリード』の影響を色濃く感じる。システムの説明不要なほどで「アサシン クリードっぽいステルス」で片付く。

決定的に違うのは「ステルスは武士らしくない」という気持ちがある事。楽に敵を倒せてゲームとして効率が良いのですが、卑怯な手段を使っているような気持ちになる。これは『アサシン クリード』とは真逆ですね。このあたりの心境はメインストーリーのメインテーマとシンクロさせられていて上手い。最初は武士らしく戦いたいと思うけど、終盤にやっかいな敵が増えてくると、誉れにこだわっていられなくなるのはメインストーリーと一緒。武士の誉れを意識して正々堂々と戦うのか、武士の誉れを汚してでも勝ちに徹するかはプレイヤー次第。
「プレイヤー次第」という部分の提供の仕方も良い。これが例えばステルスで敵を倒すと境井仁が闇に落ちるとか、スコアが変わるとか、ストーリー展開が変わるとかになると、その事情でプレイヤーがスタイルを選んでしまう。「誉れ」はそういう事情で選ぶようなものではないと思うので、プレイヤーが自分の気持ちだけで戦闘スタイルを選べるのは良いです。自由に「侍ごっこ」「冥人ごっこ」ができる。

中毒性に関わる遊びやすいポイントもあります。
まず、しゃがみ移動がけっこう速いこと。しゃがみ移動で敵の背後から暗殺するゲームは多いですが、しゃがみ移動のスピードはゲームによって大きく違う。このゲームは速いので、しゃがみ移動で快適に動けて暗殺できる。地味にストレスを与えるポイントを解消している。
そして耳澄まし(壁が透けて敵の位置がわかる能力)に使用制限なし。何度でも使えて、時間制限もなく耳澄まし状態で歩き続けられる。このゲームはミニマップがないので、この選択も良かった。敵を透かして見続けられるのでミニマップの必要性は感じない。

熱くなれるストーリー

ストーリーミッションもオーソドックスなスタイル。「仁之道」というメインストーリーと「浮世草」「伝承」というサイドストーリーがあり、ミッションアイコンの表示されているNPCに話しかけるとミッション開始。

まずメインストーリーだけじゃなく、サイドストーリーも面白かった。主要な仲間5人にキャラ別のサイドストーリーがあるのですが、凄惨な過去を抱えていたり、複雑な人間関係のこじれなどもあり、それが今起こっている問題に繋がっていて、謎があり結末も気になるストーリー。ストーリー展開の面白さと人間描写の上手さ、そして印象的(もしくは衝撃的)な場面の作り方が揃っていて、それぞれ単独DLCで販売しても良いくらいのクオリティとボリュームがあります。

主要な仲間が関わらないモブNPCのサイドストーリーもありますが、これも陰謀あり悲劇ありでストーリーの質が高く、「おつかい」っぽさは感じなかった。やる事は敵を倒すおつかいっぽい事なのですが、そのショートストーリーが面白くて、楽しい侍ごっこができるからロールプレイの舞台として良いのです。
「〇〇を5人倒して」「〇〇を5個持ってきて」とかいう単純なおつかいは完全に排除している。これは大正解。

メインストーリーも熱かったし、わかりやすくて深みもある。しっかりピリオドも打てており、クリア後の余韻も良かったです。生き様の熱さと美しさに泣けた。
強引すぎるとかツッコミどころもほとんどなく、「武士の誉れと冥人」というメインテーマを描けていました。主人公の境井仁が対馬を蒙古軍から守るストーリーですが、武士らしく戦うだけでは民を守れないという思いから、卑怯とも言える手を使う冥人になる。そのことで父親のような存在である地頭の志村との対立も生まれてしまう。この境井仁と志村の関係の描き方も見事。チープな闇落ちなどではなく、境井仁の覚悟が感じられるし、それを支持する者も多い。志村はそれを絶対に許すことはできない立場だけど、単に敵視するだけのキャラクターではない。
武士と冥人、どちらも良いところと悪いところを描いていて、境井仁も志村も正しいし悪いところもある。この描き方はフェアだったように感じる。だから2人とも嫌いになれない。相容れない関係の2人ですが、断ち切れない絆を感じて泣ける。

メインストーリーは王道的で意外性はないですが、奇を衒わずにきちんと描かれる王道が素晴らしい。人間描写の上手さも光ったとも思います。それぞれがだらしなさやいい加減さを持っていて人間臭い、悪いところもあるけど憎めない。中でも石川先生は魅力的なクズだと思いました。

メインストーリーもサイドストーリーも日本人だから1.5倍増くらいで楽しめるというのもあるかと思う。日本が舞台というのは大きい。
ミッション以外にも、キツネがお稲荷様の社に案内してくれる有難味とか、和歌の味わいとか「日本文化に馴染みがない人にわかるのかな?」というものも多い。

アートとして美しい対馬

このゲームの大きな特徴でもある美しい対馬の風景。美しい名所があるというよりも、当たり前のようにそこにある自然が美しいのが魅力。オープンワールドゲームは移動時間が長くなるのも特徴ですが、馬に乗って移動しているだけでも映画的な美しいシーンになる。

決してテクスチャが高精細というわけではないし、その部分は『The Last of Us Part II』と比べると見劣りする。「高精細」「写実的」が売りではなく、画作りの上手さや美的センスで生み出された美しいグラフィック。
自然の鮮やかな色を強調し、そこに光を絡める。そしてそれを動かす風。静止画では伝わらない風の表現が素晴らしい。

フォトモードも多機能であり、対馬の美しさと侍のカッコ良さもあり、フォトモードが楽しいゲームBEST3に入るのは間違いない。

そして昔の映画っぽくなる黒澤モードも良い味わい。モノクロになるだけではなくノイズもある。さらに音声がモノラルっぽくなるのが雰囲気を醸し出します。
黒澤モードのほうが実写映画っぽく見える。

高速ロードの素晴らしさ

AAA級のオープンワールドゲームにしては驚愕なロードの速さ。PS4 Pro+SSDでファストトラベルは10秒未満、死亡時のリトライも5秒程度。超快適です。

ファストトラベルの速さはオープンワールドゲームを劇的に楽しくする。長距離の行き来が苦にならない。

死亡時のリトライは死にゲーを劇的に楽しくする。まぁ死にゲーってほど死なないですけど、死ぬという小さなストレスを癒し、汚名返上の手をすぐに差し伸べる高速ロード。

体験して思ったのは、例えば本来なら30秒以上かかりそうなロードが10秒で終わるのって「待ち時間が20秒減った」だけが重要ではないということ。その先を想像して心の負担が減る事が大きいんです。長いロードのゲームは「これから何度も30秒以上待つのか……」という心の負担を抱え続けてプレイする事になる。ファストトラベルを使うのも疲れる。この負担が大きく、これを解消する手段がゲームを止める事にも繋がる。「これからも待たなくていい」という状態でプレイするオープンワールドゲームは最高です。これも『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』の中毒性の要因。

PS5とXbox Series Xはアーキテクチャの進化によってPCよりもロードが速くなることが期待できるハード。PS4末期の今、高速ロードの素晴らしさと有難さを実感でき、次世代への期待も大きくなった。

絶妙なトロフィー設定

プラチナトロフィーを獲得しやすいです。
『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』プラチナトロフィー攻略メモ – PS4ちゃんねる Pro

「面白いゲームはトロフィー設定も上手い」という法則に当てはまる。近年のトレンドでもあるトロフィー設定のツボを押さえている感じです。難易度不問、面倒な作業系なし、ゲームプレイの幅を狭めない、収集物はコンプリートしなくて良い。

中でも収集物のコンプリートをしなくても良いのはポイントです。攻略情報をなぞる作業にしないためにも、自力で達成できる設定が求められる。

微妙なバグは気になる

発売日で既にVer1.04でした。細かな修正は続いているようですし、まだ修正は必要だと思います。ミッションが一時的に進行不能になったり、アイコンの表示がおかしかったり、小さなバグは残っている。

バグ以外で気になった点は会話スキップができないこと。字幕有りにして文字だけをパッパッと読みたいところもある。
1周するだけならムービースキップができないのは気にならないですが、2周目以降にアクションメインでやり込みたいなら不便に感じそう。

洗練された美しさ

よくあるオーソドックスなオープンワールドゲームかと思いきや、洗練されていて遊びやすく、止め時がないゲームでした。小さなストレスとか面倒くささの排除が意識されており、魚の小骨をキレイにとってくれたみたいです。
それに加えて、日本と侍の描き方の美しさが濃い味付けになっている。
軸となる戦闘の開発に5年を費やしたのも大正解。戦闘が微妙だったら、他の部分がどんなに良くてもアクションゲームとしての面白さは感じにくくなる。
肥大化しがちで無駄も多くなるオープンワールドゲーム。不要な部分は取り除き、必要なところは濃い味付けをする。かなり研究してから組み上げられたんじゃないかと思います。

これほどのゲームは滅多にないので、シリーズ化してほしい。サッカーパンチは『inFamous』『inFamous 2』『inFamous: Second Son』をリリースしていますし、それぞれDLCもありました。『Ghost of Tsushima』も次の展開を期待したくなる。となると重要なのは売上なんですよね、特にAAA級ゲームは売れなきゃ続けられない。日本の小売店は品切れ報告が多いですね。ユーザー評価の高さが売上に繋がっているかと思います。
PS5の後方互換機能でも遊べますが、どのくらい変化があるのかも気になるところ。

浅い目で見るとよくあるオープンワールドゲームに見えるが、プレイしてみると遊びやすさが徹底されており、ここまでのものは見た事がないというレベルの唯一無二の存在。それがユーザー評価の高さにも表れている。期待以上の出来で、SIEワールドワイドスタジオが提供するPS4最後の大作としての務めを見事に果たした。

コメント

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  2. 匿名 より:

    まだクリアしていませんが、個人的には戦闘の気持ちよさがスパイダーマンのそれに似ていました。操作性はまったく別として。
    ラスアス2に続いてのプレイなんですが、ゲームとしてこっちの方が上だと感じています。

  3. ななし より:

    感想記事ありがとうございます!

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